食品中の放射性セシウムの新規制値が今月から導入され、学校給食の現場では、検査機器を新たに購入して検査を行ったり、国の規制値よりも厳しい独自基準を設けたりする動きが広まっている。
読売新聞が47都道府県に聞き取ったところ、給食に含まれる放射性セシウムを調べるため、東日本の16都県で少なくとも353台の検査器を新学期から導入する。
最も多くの検査器を導入するのは福島県と同県内の市町村で計262台。県内の給食センターや学校の調理場計330か所すべてで検査が可能になるという。機器購入費や検査の人件費など約13億円は県の基金で全額補助する。
岩手県も、県立校向けに11台購入するほか、20市町村の購入費の半額を負担する。青森、群馬、埼玉県などは、購入した機器を市町村の検査に活用してもらう。
新規制値は、放射線の影響をより強く受けるとされる子どもに配慮し、肉や野菜などの一般食品は3月までの暫定規制値の5分の1に引き下げて1キロ・グラムあたり100ベクレルに。牛乳は同50ベクレルを超えないよう求めた。
宮城、新潟、長野3県は、より厳しい独自基準を掲げ、安全性への配慮をアピールする。宮城県は、簡易検査で1キロ・グラムあたり50ベクレル以上を検出した食材は精密検査に回す。「測定精度の『ぶれ』を考慮して基準を下げた」とする。
一方で、山形県は「独自の基準を設けると保護者が混乱する」として国の規制値を適用する方針だ。
国も対策に乗り出す。文部科学省は今年度から、全都道府県で抽出方式による「丸ごと検査」を始める。約3億2000万円を投じ、福島県の全市町村と、他都道府県で希望する自治体から2か所ずつ抽出し、検査を行うことを検討している。
■不安な保護者 現場は困惑
学校現場からは「保護者の不安に、どこまで応えればいいのか」と困惑の色もにじむ。
福島市立庭坂小の給食調理室。11日午前9時過ぎ、調理師がご飯、鶏肉、シメジ、ゴボウなど2食分の食材を取り分け、汁物に使う水も加えてミキサーで混ぜ合わせた。検査器がある市支所までは車で10分ほど。ミキサーにかけた食材を専用容器に移し替え、計測が始まる。検査結果は、給食の時間の約1時間前に、ファクスで学校側に届く。
同小は、食材の納入業者に最大1時間、納品を早めてもらった。「子どもが食べるまでに結果が分かることが、何より保護者を安心させる」と山内雄和校長(56)は力を込める。
福島市教委は昨年11月から、月に2~4回程度、給食用食材の検査を行ってきた。今年度から簡易検査器96台を市内各地に配置、全73校を対象に毎日測る体制を整えた。検査器の測定下限値(1キロ・グラムあたり20ベクレル)を超えれば給食の提供を止める方針だが、今のところ基準を超えた学校はない。
一方、現場からは戸惑いの声も上がる。
東北のある県の担当者は「(1キロあたり)10ベクレルまで測定できる検査器で不検出でも、『6、7ベクレルだったらどうするのか』と疑心暗鬼になる保護者もいる。不安には際限がない」と漏らす。
仙台市教委はこれまで、食物アレルギーを持つ子どもたちに限定していた弁当の持参を、新年度から放射能の影響を不安視する家庭にも認めることにした。担当者は「給食は食育の観点から大切な時間。本当はみんなで食べてほしいのだが……」と困惑する。
■丁寧に情報開示を
食品安全に詳しい唐木英明・東大名誉教授の話「給食検査を強化すれば、保護者の安心感は高まる。しかし、数値の意味の理解が進まないまま、『検出値がゼロでないと安心できない』という強硬な風潮もいまだに残る。背景には行政に対する強い不信感がある。行政は丁寧に情報を開示して信頼を取り戻す必要がある」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120412-00000302-yomidr-soci