[ カテゴリー:社会 ]

<心でつながる親子>/3 乳児院で「お見合い」

 ◇児童相談所が仲介 対象少なく、養子縁組は狭き門

 「お見合い」の日、もうすぐ3歳になる女児は保育士に抱かれ、目をパチパチさせていた。晴美さん(47)=仮名=が長女となる女児と出会ったのは神奈川県内の乳児院。児童相談所(児相)から紹介された。毎日のように乳児院に通った。すぐ「お母さん」と呼んでくれた。仲良く滑り台をして、砂場でプリンの形を作って遊んだ。「近いうちに親子3人で暮らせるかな」と思えた。

 しかし1週間後に態度が一変。保育士から離れようとしない。友だちとばかり遊んで、晴美さんの方を見なくなった。今まで手伝ってあげた着替えも「一人でやる」と言わんばかり。「順調にはいかないな」と感じた。

 晴美さんは29歳で結婚したが3年間子どもが授からず、不妊治療を始めた。顕微授精にもチャレンジしたが、子宮外妊娠に至った。病院のベッドで晴美さんは、妊娠ではなく子どもを育てたいのだと気づく。夫婦でそれぞれの父母から同意をもらい、養子を迎えるため児相に登録した。

 児相では、育ての親に子どもを託す前に乳児院に通ってもらい、子どもと触れ合う「交流」期間を設けている。親の愛情を知らない子は、ぐずったり突き放したりの「試し行動」をとることもある。

 そのころ、晴美さん夫婦の新しい家が完成した。引っ越しで忙しく、1週間ぶりに乳児院に向かった。「なついてないから大丈夫かな」。しかし、うれしい変化が起きていた。いつも通りに遊び晴美さんが帰ろうとすると、「一緒に帰りたい」と泣き出したのだ。「びっくりしたけれど、ほっとしました」

 交流を3カ月続け、女児を我が家に迎えた。約3年後、同じく児相から1歳1カ月の男児の紹介を受けた。まだ小さかったためか、突然現れた親への拒否感もなく、すんなりと家になじんだ。晴美さん夫婦は2人と特別養子縁組の手続きをし、家族は4人になった。

 長女(15)は今、高校受験直前の中学3年生。「勉強はかどってる?」と聞くと「これからはかどらせる」とのんびりした様子だ。長男(10)は一言一言が面白い「天然系」。歌手の浜田省吾さんの大ファンの晴美さんに、「お母さん、告(こく)っちゃえば? 結婚したい?」と、ませた表情で言う。

 思えば不妊治療中、病院で養子という選択肢が示されることはなかった。親族に養子を反対され、ためらう人も少なくない。「子育てをしたいと思ったとき、自然妊娠、不妊治療と並んで養子も自然に考えられる世の中になってほしい」。晴美さんは願う。

   ◇  ◇  ◇

 初めて訪れた関東地方の乳児院には、子どもがたくさんいた。養子を迎えようとしていた幸子さん(30代)=仮名=はしかし、職員の一言に衝撃を受けた。「この中に紹介できる子はいません」。籍の入らない里子でなく、籍が変わる養子縁組の対象になる子は少ないのだと実感した。

 しばらくして児相の職員の家庭訪問があった。ベランダやお風呂に立ち入り、危なくないか見ているようだった。夫婦の生い立ちや兄弟関係について2時間ほど、話をした。2カ月後、養子縁組里親の「認定通知」が届いた。

 「男の子と女の子がいますが、どうですか」。すぐに児相から連絡があった。育ての親候補の一人に選ばれたのだ。女児希望を伝え「もしかしたら」と期待した。しかし1カ月後、「縁がなかった」と連絡があった。次の子どもの打診もあったが、再び最終候補に残ることはできなかった。

 「候補にならないと子どもと会うことすらできない。それから交流をして、自宅に迎えるのはいつになるのか……」。幸子さんは遠い道のりを実感する。

 子を望む夫婦の男女別や年齢の希望を考慮しながら、自治体は、親子の年齢バランスや兄弟関係を考えつつ親候補を決めていく。子どもの数は少なく、チャンスはなかなか巡ってこない。11年3月時点で養子縁組里親には全国で1840世帯が登録しているが、養子縁組前提で託された子はたった179人だ。

 子どもの紹介は、児相のみでなく民間団体も行っている。「焦るわけではないけれど、きょうだいを作るために1人目と早く出会いたい」。幸子さんは、民間団体という選択肢も考えながら、出会いを待とうとしている。

   ◇  ◇  ◇

 埼玉県志木市の吉田奈穂子さんが里親になろうと思ったきっかけは、不妊治療中に見ていたネットのサイトだ。「近所にすてきな里親さんがいます。親子4人仲よさそうで、そういう選択もいいな」という書き込みにひかれた。とにかく子育てがしたかった。

 長女となる8カ月の女の子と会ったのは、乳児院の応接室。びっくりしたように泣いていた。しばらく里親として育て、4歳で特別養子縁組の申し立てをした。家庭裁判所からの許可の審判書は、薄い封書で届いた。開けた瞬間、ほっとして涙が止まらなくなった。

 「学校で遊ぶのは男の子ばっかり」。そう話す小学生の長女は、水泳やバスケットボールが好きな、活発な子に育った。

 悩んだ時、吉田さんは里親が集まるサロンに顔を出した。幼稚園でのトラブルを打ち明けると、実子でも同じようなことがあったと聞いた。「みんな苦労してるんだ」と知った。自分の子どものことだけ考えていると行き詰まるが、「児相や地域の人とつながり、みんなで養子を育てる気持ちが大切」と吉田さんは実感している。

………………………………………………………………………………………………………

 ◇児童相談所による子どもの紹介

 養子縁組が必要な子の紹介を受ける場合、08年の児童福祉法改正で位置づけられた「養子縁組里親」として自治体に登録しなければならない。年齢制限を設ける自治体もあり、可否を児童福祉審議会で審議する。里子の委託を受けた後は、家裁の審判確定まで里親として子どもを育てる。

 公費でまかなうため、児相の紹介でかかる費用は基本的に無料。民間団体は、全く求めないところから平均200万円以上(05年度こども未来財団調査)まで幅がある。厚生労働省は、研修や家庭訪問、実母の出産、子どもの養育に関わる費用などを、育ての親希望者から受け取れるという通知を出している。

http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/bizskills/healthcare/20120127ddm013100018000c.html

Facebook にシェア
[`tweetmeme` not found]

コメントする

Facebook にシェア
[`tweetmeme` not found]

団体理念  │  活動展開  │  団体構成  │  定款  │  プライバシーの考え方  │  セキュリティについて  │  事業  │  メディア掲載  │  関連サイト  │  お問い合わせ

copyright © JMJP HOT TOWN Infomaition Inc. All Rights Reserved.   NPO法人 住民安全ネットワークジャパン

〒940-0082 新潟県長岡市千歳1-3-85 長岡防災シビックコア内 ながおか市民防災センター2F TEL:0258-39-1656 FAX:020-4662-2013 Email:info@jmjp.jp