[ カテゴリー:社会 ]

<心でつながる親子>/1 育てる喜び、「縁」に感謝

 ◇不妊治療に見切り NPO介し、特別養子縁組

 「かもめーのすいへいさん」。姉妹の歌声がリビングに響く。

 東京都府中市のマンション。室内用の滑り台の上に、長女(4)と次女(2)がちょこんと座り、音が鳴る絵本を開いている。冷蔵庫にはったカードには「おとうさん おたんじょうびおめでとう」のたどたどしい文字。松崎武志さん(38)は「子どもができないことはないだろうと不妊治療を続けてきた。血はつながっていないけど、結果として子どもとの暮らしがある。幸せです」。温かい視線の先で、妻晶子さん(43)がほほ笑む。

 結婚したのは04年。翌年、晶子さんは妊娠したが間もなく命は消えた。体外受精や顕微授精を10回以上行った。39歳になったとき「もう無理かも」と思い次の方法を探した。「妊娠したとき夫は涙を流して喜んだ。だから絶対に子どもがほしかった」。インターネットで、NPO法人「環(わ)の会」(東京都新宿区)を知る。

 環の会は、予期しなかった妊娠で悩む人、または経済的事情などで出産、育児が難しい親の相談にのり、生まれてきた子が幸せな環境で育つよう支援する。子どもを育てることが難しい場合、生みの親が希望すれば、特別養子縁組を前提として育て親を紹介する。

 08年2月、環の会の説明会に出た松崎さん夫婦は度肝を抜かれた。養子縁組をした先輩親子が「あまりに普通で明るかった」からだ。子どもが騒ぎ「うるさい」と親が叱っている。それぞれの親子の顔がなぜか似て見えた。「こんな世界があるんだ、と衝撃だった。知らずに感じていた不妊治療のプレッシャーから解放された」。武志さんは振り返る。

 説明会から数カ月後の夜、「親を必要としている子がいます。あさって迎えに行ってください」と環の会から電話があった。

 その子は元産科医の家に預けられていた。生後10カ月の目のぱっちりした女児。松崎さん夫婦は「子育て研修」として3日間、同じ部屋で3人で過ごした。女児は晶子さんを見ては布団につっぷして泣き、ミルクも飲まない。「ほんとに私でいいのかしら。嫌がっているのに」と戸惑った。しかし家を出た瞬間にぴたっと泣きやみ、夜は自宅ですやすや眠った。「心の中でけじめがついたんだと思います」

 約1年後、2人目の女児を迎え、家族4人の暮らしになった。休みには車で日帰り旅行を楽しむ。姉妹はフルーツ狩りが大好きだ。

 「お父さん、パンツってどっちが前?」。お昼寝から起きてズボンをはこうとした次女が、つぶやいた。長女が近寄って教えている。「2人が姉妹になったのはすごい縁。ずっと仲良くしてほしい」。夫婦の願いだ。

   ◇  ◇  ◇

 神奈川県大和市の加藤恵さん(43)は、生後3カ月で、環の会から長男太一君(7)を迎えた。今は小学1年生。電車が大好きで、絵を描いては「4000形だよ」と得意顔だ。休日には夫大輔さん(34)と3人で、電車や仮面ライダーのイベントに参加する。「夫婦2人では見えなかった世界がある」と思っている。

 33歳で結婚。早く子どもがほしくて、産婦人科を訪ねた。しかし授からず原因もわからない。2回目の体外受精の結果が陰性だったときから、ネットで養子について調べはじめた。「夫婦だけで仲良く生きていく道もある。でも親子連れを見たとき一生、うらやましいと思うのかな……と」

 卵子提供を受ける選択肢は自分たちにはなく、気持ちは養子に傾いた。40歳までに子どもを迎えたい。恵さんは自分で区切りをつけ、5回目の体外受精の結果が陰性だった37歳のとき、すっきりした気持ちで環の会に問い合わせた。

 太一君と出会ったのは乳児院。桜の季節だった。青い服を着て、目がくりくりしてぷくっとした太一君を見た瞬間、ぶわっと涙があふれた。「うれしいとかかわいいとかの前に、ああこの子なんだって」。ベビーカーを押す自分の姿が街中のガラスに映ると、こそばゆかった。

 いま加藤さん夫婦も説明会に経験者として参加し、育て親希望者の相談にのる。子どもの幸せを最優先させるため、環の会は、夫婦のどちらかは専業主婦(主夫)、年齢は共に39歳以下との条件を定めている。子どもを迎えるには、説明会、面談、研修に夫婦で参加することが前提だ。

 「一人の子どもを託されて育てる覚悟は、とても重たい。不妊治療をあきらめるのではなく、きっちり終え、納得してから来てほしい」。恵さんは言う。

 何気ない日常に、しみじみとする瞬間がある。「算数ができなくて」とママ友だちとおしゃべりする時。クリスマスケーキを前に家族で撮った写真を眺める時。「3人でよかった」と恵さんは思う。「こんな時が過ごせるのも太一のおかげ。育てさせてもらってありがたい」

   ◇  ◇  ◇

 子どもを育てたい大人と、親を必要とする子ども。両者が出会い、養子縁組をしたり、里親家庭を築いたりして共に人生を歩んでいる。育て親に託した子を思い続け、実子と交流を続ける生みの親もいる。血縁や家庭の枠を超え、深い絆で結ばれた親子を追った。=つづく

………………………………………………………………………………………………………

 ◇特別養子縁組

 子どもの福祉を重視した制度として、民法の一部改正に盛り込まれ、88年施行。普通養子は戸籍に「養子・養女」と載るが、「長男・長女」など実子と同様の記載となる。申立時に子どもが6歳未満▽家庭裁判所の審判により成立▽6カ月以上の試験養育期間が必要▽養親からの離縁はできない――など、厳しい条件がある。

 成立件数は89年が1223件と最多で、近年は年300件前後。中央大の鈴木博人教授(家族法)は「当初は制度成立を待って申請した人も多かった。申請には実親の同意が必要だ。いずれ引き取りを希望する親が多いため、養子として託せる子は増えていない」と話す。

http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/bizskills/healthcare/20120125ddm013100136000c.html

Facebook にシェア
[`tweetmeme` not found]

コメントする

Facebook にシェア
[`tweetmeme` not found]

団体理念  │  活動展開  │  団体構成  │  定款  │  プライバシーの考え方  │  セキュリティについて  │  事業  │  メディア掲載  │  関連サイト  │  お問い合わせ

copyright © JMJP HOT TOWN Infomaition Inc. All Rights Reserved.   NPO法人 住民安全ネットワークジャパン

〒940-0082 新潟県長岡市千歳1-3-85 長岡防災シビックコア内 ながおか市民防災センター2F TEL:0258-39-1656 FAX:020-4662-2013 Email:info@jmjp.jp