前回、「親の許可をもらわないで未成年の娘に緊急避妊の薬を処方していいのか」と抗議された一例を紹介するとともに、医師としての守秘義務の話をしました。これを受けて、「子どもは自分の何を決めていいか」をテーマに、「医療を受けること」 「セックスすること」を例に考えてみました。
ところで、各種法律によって「子ども」の定義が微妙に異なっているのをご存知でしょうか。民法では「満20歳をもって成年とす」としており。児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律では「この法律において児童とは18歳に満たない者」、民法上での婚姻許可年齢は「女子16歳、男子18歳」、氏の変更権は「15歳以上であれば自分で届け出ることができる」。臓器移植同意権は「15歳」、刑法上の性交渉同意年齢は「13歳未満の女子を姦淫した者は強姦罪とし2年以上の有期懲役に処する」などとなっています。しかし、性行動における「子ども」をどう捉えるかは、成長の度合いや養育環境などを踏まえて、法律以上に個別対応が求められることになります。
医療を受けることについては年齢制限はありませんが、契約を伴うために「法律行為」として扱われています。したがって子どもが医療を受けるには、法廷代理人の同意を要することが原則となっており、「子ども」に法律行為能力(法的に有効に契約できるか)、同意能力(治療の中身を理解して締結したか)、事理弁識能力(太陽は東から昇り西に沈むなど、物事の経験則を正確に理解する能力)があれば、医療契約は成立すると考えられています。したがって、理解の度合いによるところですが、医療機関受診は自分で決めていいことになります。
もちろん、保険診療を受ける場合には、保険証の提出が必要ですし、親に知られる可能性は高くなりますが、医療機関側から親の承諾書を取り立てることはありません。医療の現場では患者から知り得た情報に対しての守秘義務があるために、子どもが親の了解なしに受診するような場合には、どういう対応が適当なのか苦慮することがしばしばです。子どもが親に知られたくないと主張するにもかかわらず、親を巻き込むことは子どもの権利の侵害になるのは当然です。一方、医療契約としては親の同意が必要なのですから、何か事件が発生した場合を想定して、年少者では親の意見を聞かざるを得ないのではないかとの疑問が残ります。
もっとも子どもが行動を起こす前に親が巻きこまれず、後から知らされたのでは親としての責任を果たすこともできないわけで、日頃から口うるさく干渉するだけでなく、いつでも相談の対象として子どもから選ばれるような親でありたいものです。
それではセックスについてはどうでしょうか。高校生の頃、セックスのことばかりを考えては悶々とした日々を過ごしていた自分の過去を振り返れば、年少という理由だけでセックスを否定することはできません。動物は月経や射精を経験した直後から性交が行われるといいます。としたら、人間とはいえ動物性を有する私たちが12、3歳からセックスを開始しても不思議ではなく、むしろ、それが当たり前であるという前提の上に、コミュニケーション、セックス、避妊、性感染症予防などをテーマにした教育を積極的に推進していくことが必要ではないでしょうか。
しかし、そのような教育が欠落している今日、医療の現場には、セックスの結果必要となった緊急避妊法、妊娠や性感染症などを訴えて受診する子ども達が絶えません。教えられていないのですから当然かもしれませんが、問題認識が欠けているのです。リスクを100%回避するためにはセックスをしないこと以外にはありませんが、仮にセックスを「する」と決めるのであれば、自分の健康や安全を脅かす問題からも目をそらすわけにはいきません。
還暦を迎えてもなお、「いいセックスとは何か」と悩み続けている自分がいます。方程式を解くように明快な回答があるわけではありませんが、以下の問いにひとつでも「No」があったら、セックスを先送りして欲しいのものです。でも、これは中学生にというよりも、「いいセックス」の実現を目指す自分自身に向けた問いでもあります。
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