東京電力福島第1原子力発電所事故後の消費者の食に対する安全志向の高まりを受け、小売り大手が農畜産品の安全対策を強化している。イトーヨーカ堂やローソンが野菜などを直接仕入れる契約農家や直営農場を増やす一方、イオンは放射性セシウムで汚染された稲わらを食べた牛の肉が流通した問題を受け、国産牛の全頭検査に乗り出した。食の不信感を取り除く動きが小売業界に広がりつつある。
◆ブランドの確立
イトーヨーカドー大森店(東京都大田区)の青果売り場には、契約農家から直接仕入れたトマトやナス、キュウリなどがズラリと並ぶ。「顔が見える野菜。」というブランド名を付け、袋には誰がどのように作ったかを明記。顧客が手にとって内容を確認しながら、買い物かごに入れていく姿が目立つ。
セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は2002年から「顔が見える野菜。」を手がけるが、今年度は品目数が前年度比1割増の約230、売上高も同2割増の150億円に膨らむ見通しだ。「市場を通すより早く、安心・安全な野菜を供給できる」(青果部の川島芳之チーフバイヤー)のが売りで、8月からは大阪府産の水ナスの取り扱いを首都圏で始める。
また、セブンは08年から関東近県で直営農場「セブンファーム」を展開。ヨーカ堂の野菜取扱量のうち、直営農場分は1%未満だが、鮮度と品質の良さから顧客の評判は高く、13年をめどに農場を全国10カ所まで増やす計画だ。
地元農家と契約した地場野菜などの直接仕入れを入れると、ヨーカ堂の一連の産直取引は昨年度、全野菜流通量の7割を占めていたが、「トレーサビリティーの確実さや味の良さから売れ行きがよい」(担当者)ため、今年度は8割に拡大する見通しだ。
一方、ローソンは昨年6月の千葉県を皮切りに北海道、鹿児島県の3カ所で自社農場「ローソンファーム」を開設。生鮮コンビニ「ローソンストア100」とローソンの野菜取扱店舗で、同ファーム産の小松菜や大根などを販売している。同ファームを11年度中に全国で最大10カ所まで拡大、12年度末までに店舗で販売する野菜全体の約1割の供給を目指している。
イオンはプライベートブランド(PB=自主企画)「トップバリュ」で提供している国産黒毛和牛の全頭検査を自社負担で開始、28日から関東地区の「イオン」「マックスバリュ」115店で販売を開始した。
◆牛肉不信を払拭
イオンの総合スーパー事業を担うイオンリテールの村井正平社長は「国産牛肉への店頭での不安を払拭するには、いくらコストがかかっても、全頭検査を行うしかない」と強調する。
国産黒毛和牛は5月末から取り扱いを始め、主に鹿児島県と宮崎県の指定農家からの仕入れで、取扱量はイオンの国産牛肉のうち6割を占める。現在の月間出荷量は250トン程度だが今後、これを2倍近くに拡大し、取扱店を9月めどに全国の約1000店に広げる予定だ。
またイオンは大手流通業の中では唯一、オーストラリアのタスマニアに直営牧場を持ち、自然の穀物だけで育てた牛肉を輸入販売している。今月15~18日にイオン全店で開催した「オーストラリアフェア」では、通常より3~5割も売り上げが伸びたという。イオンは今後、国産黒毛和牛とタスマニアビーフの取扱量を拡充することで、消費者の食の安全ニーズに応える考えだ。
日本チェーンストア協会によると、7月中旬以降の国産牛の売上高は前年同期比で約4割の減少に見舞われている。SJ流通戦略研究所の和田光誉代表は「(セシウム問題から)国産牛が買い控えられる状況が当面続く可能性がある。調達を工夫する動きは今後、業界全体に広がりそう」と指摘している。
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