カキ「生食用」「加熱用」何が違う? おいしさもそれぞれ…プロが解説
冬に旬を迎えるカキ。ぷりぷりとした乳白色の身で、栄養も豊富なことから「海のミルク」とも呼ばれる。生で味わうだけでなく、蒸したり、鍋にしたりするなど食べ方はさまざまだ。スーパーの店頭で、カキのむき身は「生食用」と「加熱用」に分かれて並んでいる。見た目はほぼ同じ。違いは何なのか―。魚のプロに聞いた。(時事通信水産部 岡畠俊典)
◆鮮度の違いではなく…
師走に入り、東京・豊洲市場(江東区)でも、全国から集まるカキの取引が活発化している。今シーズンは成長の遅れが心配されていたが、「身入りが良くなってきた」(同市場の卸会社)といい、入荷量が増えて取引価格も下がってきた。
そんなシーズン本番のある日、カキが大好物という40代女性に生食用と加熱用の違いを尋ねてみた。返ってきた答えは「生食用のほうが新鮮なのでは?」。生食用は魚の刺し身のように鮮度が良いイメージがあり、加熱用は鮮度が落ちていて火を通す必要がある、と思っていたという。自宅でカキフライを調理するのに、生食用を買ったこともあったそうだ。鮮度の差、が一般的なイメージなのかもしれない。
全国漁業協同組合連合会(全漁連)の担当者は、生食用と加熱用の違いについて「鮮度は関係なく、取れる海域の違いです」と説明する。どちらも新鮮な状態を保って出荷されており、鮮度に関しては「基本的にほとんど変わらない」(同)という。
◆生食用の衛生対策、栄養豊富な加熱用
海域の違いとは何か。全漁連の担当者は、生食用と加熱用は「養殖される場所が異なり、生食用は海域が定められている」と解説する。生食用として出荷されるカキは、水質検査で食品衛生法の基準を満たした、菌が少ない海域などで生産される。その海域以外で採取されたものは加熱用となる。国内養殖量トップの広島県では、生食用と加熱用で育てる海域を分けている。
生食用には、身に含まれる細菌数などの衛生基準もある。大量の海水を吸って取り込まれた菌や不純物を、出荷前に数十時間かけて取り除く浄化処理が行われている。各産地では「安全に食べてもらうための衛生対策に取り組んでいる」(水産関係者)という。
一方、加熱用は河口付近で養殖されたカキが多い。川から流れてくる栄養分を豊富に摂取しているため「身が大きくなりやすい」(同)とされているが、菌なども多く、生食には向かない。
カキの主産地は広島県のほか宮城県や岩手県などで、地域性もある。全漁連の担当者は「瀬戸内海の河口近くで生産が盛んな広島県産は加熱用が多く、主に太平洋の沖合で養殖される三陸産は生食用の割合が高い」と話す。
◆それぞれのおいしさは?
カキで懸念されるのが、ノロウイルスなどによる食中毒だ。その原因の多くは「加熱用カキの加熱が不十分なケース」(全漁連担当者)という。加熱用を調理する際は「必ず十分に火を通してほしい。生で食べるのは絶対にやめて」(同)と注意を促す。生食用も、消費期限をしっかりと確認し、近年増えている殻付きを扱うときは、殻でけがをしないよう気を付けてほしいと呼び掛けている。
生食用と加熱用では、おいしさに違いがあるようだ。豊洲市場の仲卸業者「吉善」の吉橋善伸社長によると、生食用は「水揚げ後の浄化処理で風味が落ちることもあるが、独特ののどごしや香りを楽しめる」、加熱用は「蒸したり焼いたりすると多少縮むが、風味が良くてうま味が強い」という。そのため、フライや鍋、グラタンなど加熱調理する場合は「生食用ではなく、加熱用を選んだほうがより風味を楽しめる」(吉橋社長)とアドバイスする。生食用では「レモン汁のほか、タバスコなどと合わせてもおいしい」(同市場卸会社)との声もあった。
おいしいカキの見分け方について、吉橋社長は「身が濃い乳白色で、ふっくらとしていて形が崩れてないものがお薦め。黒いふちが際立っていると鮮度も良い」と説明する。
ビタミンや鉄分、たんぱく質、グリコーゲンなどを蓄え、栄養価が高いことでも知られるカキ。全漁連担当者は「クリーミーで濃厚な味わいのカキをおいしく食べてほしい」と消費をアピールしている。