安易にリツイートする人が抱える「責任の重さ」 知らずと名誉毀損リスクにさらされることも
ツイッターのタイムラインに流れてきたツイートをリツイートして拡散。本人のツイートではないのに、その行為だけで名誉毀損が認められる――。
リツイートで名誉毀損の損害賠償判決が
元大阪府知事の橋下徹氏がジャーナリストの岩上安身氏に対し、ツイッターの「リツイート」で名誉を傷つけられたとして、大阪地裁に名誉毀損による損害賠償を求めていた裁判の判決が下されたのは、今年9月中旬。大阪地裁は橋下氏の訴えを認め、岩上氏に33万円の支払いを命じた。
2017年10月、「橋下知事(当時)が幹部職員を自殺に追い込んだ」という趣旨で投稿した第三者のツイートを、岩上氏がリツイート(その後すぐ削除)したのが、橋下氏が名誉毀損を訴えた理由だ。大阪地裁はリツイートを「投稿に賛同する表現行為」として名誉毀損に当たると判断した。過去の誹謗中傷事件では、本人の発言や書き込みが名誉毀損として裁かれた例は多いものの、単なるリツイートが問題になったことはなかった。
リツイートとは、ツイッターで他のユーザーがしたツイートを、自分のフォロワーのタイムラインに届けることをいう。フェイスブックではシェアというが、基本的な考え方は同じである。大阪地裁の判決に対し、ネットでは驚きの声が多数寄せられた。というのもリツイートやシェアといった「拡散」はSNSの基本的な機能であり、誰もが普通に使っているからだ。
岩上氏は今回の判決を不当として控訴。法的な最終決着は上級裁判所の判断に委ねられ、予断を許さない。ただ、今回の判決によって、SNSの基本である共感の意思表示だけで法的な責任を伴う可能性が誰にもありうることを示した点は、SNSユーザーとして注意する必要がある。
多くのSNSユーザーは、あまり深く考えずにフェイスブックでシェア、ツイッターでリツイートをしている。タイムラインに流れてきた投稿記事に、直感的に反応するというのは、よくあることだ。
フォロワーが多い人はリツイートも気軽にできなくなる
問題は、その投稿内容がどういう類のものか、よく考えずに拡散してしまうことだろう。多くの人のSNSのタイムラインには、たくさんの投稿が目まぐるしく流れてくる。それをスクロールしながら、半ば条件反射的にクリックをしている人は少なくない。
今回の判決でどうしても違和感があるのは、リツイートを「賛同した行為」として事実認定した点だ。岩上氏のフォロワーが18万人いるというのも、今回の判決に影響しているかもしれない。ただ、今回の岩上氏のリツイートが賛同を表したものと裁判所が判断したとしても、リツイート自体を「賛同した行為」とひとくくりにできるのかについても疑問は残る。
SNSの利用者はわかると思うが、いいね!やリツイートは、賛同する行為だけではない。人はなぜ「いいね!」やリツイートをするか? それは他人と「情報共有」して「なにか」を伝えたいという想いがあるからだと思う。
その「なにか」の中身は、例えば次のようなことかもしれない。
1. 人の役に立つ情報と思ったから
2. 倫理的に許せないと思ったから
3. 単におもしろい、笑えるから
4. 可愛い、きれいと思ったから
5. ブックマーク(備忘録)代わりとして
6. 確認したよ、観たよ(既読)の意味で
7. 応援したい、助けたいから
8. 投稿(記事)に賛同するから
まだほかにもあるかもしれないが、これぐらい、「いいね!」やシェア、リツイートには幅の広い意味や使われ方がある。とはいえ、表現の自由には制約が伴うこともあり、情報共有のあり方と拡散の意味を問い直す必要を生じさせる法的判断といえよう。
ネット上では自らの投稿や書き込みだけではなく、他人の投稿、書き込みを拡散する場合にも注意が必要と考えたほうがいいだろう。以下のような罪に問われる可能性がある。
1. 信用毀損罪
虚偽の情報を流したり、人を騙したりすることにより、他人の信用を毀損した場合に成立する犯罪。3年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法233条前段)に処せられる。
「あの会社は倒産間近だ」「あの店は業績不振で、近々閉店するそうだ」といった、信用を失墜させる書き込みは注意。法律でいう「信用」とは、経済的な面における社会的評価に限られる。つまり支払い能力とかだ。しかし近年は、「あの店で食べた肉は和牛のA5とうたっているが、実は安物の海外牛だ」など、商品の質やサービスについて社会的信頼を失わせるような書き込みも、信用毀損になる可能性が指摘されている。
また対象は、人だけなく、企業などの法人や法人格のない任意団体も対象になる。そして親告罪(被害を受けた人が訴え出ること)ではないので、刑事告訴がなくても警察が捜査をして、逮捕される可能性がある。経済的な問題に関して信用に関わる批評や投稿には反応しないほうが安全といえよう。
2. 名誉毀損罪・侮辱罪
不特定または多数の者に対して、ある特定の者の信用や名声といった社会的地位を違法に落とす行為をいう。民事上の損害賠償責任を負う(民法709条等)ほか、刑事上の名誉毀損罪(刑法230条1項)の責任も追及される。「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」。
「あの会社の社長には、愛人が3人いる」「彼は逮捕された前歴がある」「あのタレントは、通名を名乗っている」というような場合である。たとえそれが事実であっても、名誉毀損になる。逆に事実の摘示を伴わないような場合は侮辱罪となる。例えば「あの会社の社長の頭は猿なみだ」「あいつはゲス野郎」「死ね」などだ。
親告罪だから、被害者が訴えなければ、刑事責任は問われない。一般的に多いのが損害賠償を求められる民事責任である。他人のプライバシーや名誉、差別的な発言をした投稿や書き込みは、無視してスルー。リツイートや転載、シェア、いいね!はしない。もちろん事実の裏付けを取ることなしに、自らこうした記事を書いたり投稿したりすることもご法度といえよう。
これも注意が必要なのは、法律の「人」には人間だけではなく企業や団体も含まれること。「会社幹部はみんな在日出身者。日本から出ていけ」などの文言も、名誉毀損になる可能性がある。
付和雷同は危険、自分の頭でよく考えて
ソーシャルメディアが普及し、誰もが簡単にクリックひとつで拡散できてしまう時代である。中でもSNSは、情報共有が大きな特徴であり、「共感」の心が思わぬ事態を引き起こすということを肝に銘じて、ネットと付き合ってほしい。
人の役に立つ情報と思った、倫理的に許せないと思ったからといって、それが事実無根だったり、人違いの話だったりすることだってある。そこを安易に信じて拡散してしまうと、ネットで誹謗中傷に加担する行為とみなされ、名誉毀損をしていることにもなりかねない。
著者:田淵 義朗