「最近目が見えにくくなってきたなあ」。そう思い眼科に行くと、目に炎症がおきていると言われたあなた。原因不明なので精密検査をすすめられるも、忙しさにまかせてそのまま様子をみていたら完全に見えなくなってしまった。
これを聞いてみなさんはどんな病気を考えますか?もしも事前に「性風俗に行っていた」という情報があれば、早く診断がついたかもしれません。今回は最近急増傾向にあり、失明することもある梅毒にまつわる目の病気のお話です。
梅毒が目に出てくると最初はまぶしさ・飛蚊症・視野障害・視力低下など、炎症による症状が出てきます。最終的に視神経が萎縮すると失明に近い状態となり、治療で回復することは難しくなります。しかし私たち医者は視神経をみてすぐに梅毒が原因と特定することはできません。視神経萎縮は様々な原因でおこってくるからです。
梅毒は性病のひとつなので、「性風俗」との関係が深いと言われています。日常的に風俗に利用していない方だと「自分は関係ない」と思ってしまうかもしれませんが、それは大間違い。梅毒はHIVなど他の性病と比べて非常に感染力が強く、たった1回の性交でも15~30%が感染するといわれているからです。
梅毒は初診で診断をつけるのが難しい病気で、最近は診療経験のない医師も増えています。代表的な症状は湿疹・リンパ節腫脹にはじまり、進行すると臓器のゴム腫・中枢神経症状・大動脈瘤など深刻な全身症状が出現するとされています。視力低下、頭痛、関節炎、腎炎など多彩な症状をきたす一方で、症状が全くない時期もあるため「偽装の達人」と呼ばれるほど診断が難しい病気なのです。
梅毒は性感染症ですが、ペニシリンが発見され治療可能な病気となりました。しかし1度は減少した梅毒はその後増加傾向で、国立感染症研究所は2018年に入ってからの梅毒患者報告数が2018年11月4日時点で5811人となり、昨年の値を上回ったと発表しました。20~40代男性に最も多くここ5年で4倍に増加しており、特に20代女性は5年で14倍と急増しています。梅毒は昔の病気ではなく、今まさに増加傾向の感染症なのです。
最近は他の病気で抗菌薬が多用される傾向があり、梅毒に対する治療が不十分なまま症状がほとんど出ない無症候性梅毒が増えています。しかし症状がない期間も感染力はあり、適切な治療がされないまま時間がたつと神経梅毒へ進展し視神経障害を起こすのです。
では私たちはなにに気をつければ良いのでしょうか。予防には「不特定多数の人との性行為を避けること、性行為の際は最初からコンドームをつけること」がいいと言われていますが、それは感染リスクを減らせるだけです。
予防はもちろん大切ですが、感染が心配なときは検査を受けることが何より重要。簡単な血液検査で調べることができますので、不安がある方はぜひ検査をうけてください。陽性だったら確実に治療し、他人にうつさないようにすることが肝心。梅毒は何回でも感染しますので、パートナーがいるなら一緒に治療しなければまたすぐに感染してしまいます。
医者も患者も「梅毒は過去の病気」「自分には関係ない」という認識を捨てて、梅毒の拡大を防ぐ必要があります。特に視神経萎縮は1度起こってしまうと回復は困難です。思い当たることがある方は受診のおりに、必ず伝えることをお忘れなく!
◆窪谷日奈子(くぼたに・ひなこ)医療法人社団吉徳会・あさぎり病院・眼科医長。眼科専門医。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190201-00000089-dal-hlth