「強姦」というとどんなイメージだろう。夜道や一人暮らしの部屋で突然、見知らぬ男に襲われる。こんな場面を思い浮かべる人が大半だろうが、それとは大きく異なるデータがある。
平成23年の内閣府調査で、強姦被害者の61・9%が加害者を「よく知っている人」と回答した。「顔見知り程度」も14・9%で、実に76・8%もの被害者が知人から受けた行為を「強姦」と感じ、苦しんでいる事実が明らかになった。
■「会社にいたいんだろ」
大阪府の女性会社員(38)は6年前、会社で残業中、背後に立った上司に突然口を手で覆われ、強姦された。犯行後、「すごくよかったで。君もよかったやろ」と言われ、激しい屈辱感に打ちひしがれた。呆然(ぼうぜん)と会社の床に座り込んだまま、朝を迎えた。
上司と部下、大学教授と学生、雇用主と契約社員…。目立つのが、2人の間に「力関係」が存在するケースだ。被害者のカウンセリングを行う井上摩耶子さん(74)によると、被害者は驚きと恐怖でショック状態に陥り、その被害者に加害者は必ずといっていいほど、こうささやく。「言うとおりにすれば悪いようにはしないから」「会社にいたいんだろう? じゃあ誰にも言うなよ」
■継続する被害
知人からの被害が見知らぬ男からの被害と大きく異なるのは、被害が「継続する」という点だ。
ある女子大生は大学の講師から強姦された数日後、説明を求めようと講師に会った。しかしその場で再び被害に遭い、継続的に関係を強要されるようになる。「2度目に会いに行ったのは自分。強姦だと主張しても信じてもらえない」と悲観し、一人で抱え込んだ。
井上さんはこういう事態に陥ってしまう背景について、「知人だからこそ被害者は周囲に知られるのを恐れ、2者間で穏便に決着を付けようとする」と指摘する。しかし、「それはとても難しく、加害者はそうした心理を見抜いて、2度目の犯行に及ぶ」と憤る。
被害者が追い詰められるのは、キャリアや生活を「人質」にとられるという不安だ。実際、抗議した直後から叱責や罵倒、無視といった強烈なパワーハラスメントに移行した例も多い。女性会社員も「ようやく手に入れた仕事を手放したくない」と被害を公にしていないという。
性暴力に詳しい雪田樹理弁護士は「抵抗して加害者を怒らせたとき、機嫌をとるような『迎合メール』を送る被害者もいる」と明かす。表面上、「いい関係」を維持して加害者を刺激しないための自己防衛策だが、それさえも「合意」の証拠として加害者に有利に働いてしまうのが実情だ。
■「事件化」の壁
知人からの強姦被害者が暗数になる大きな要因が「事件化」の難しさといわれる。前後の状況から「合意」と誤解されたり、「殺すぞ」といった直接的な脅迫や殴るなどの暴行がなかったりするためだ。
事件にならないとみた警察官から「あんたの方がおかしい」と言われたり、被害をうまく説明できないと「思い出せないんだったらもう一回やってもらったら?」と侮辱されたりした被害者もいる。警察をあきらめて民事訴訟で勝っても、周囲から「トラブルメーカー」と責められることも珍しくない。
性暴力被害者支援看護師の山本潤さん(39)は「相手が誰であろうと、同意のない性行為が心身に与える影響は想像を絶する。それを医師や警察、司法を含めた社会全体が認識できていない」と現状を嘆いた上で、こう訴える。「被害者の支援機関をもっと充実させる必要がある。そのことが『社会は性暴力を許さない』という強いメッセージになるのです」。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20130822542.html