[ カテゴリー:事件 ]

16万円の「高額バイト」 少年たちが振り込め詐欺の「受け子」となるまで

振り込め詐欺グループの「受け子」は少年だった-。今月2日、東京都大田区の無職女性(73)宅を訪れて現金200万円を受け取ろうとしたとして、川崎市に住む無職少年(19)と横浜市に住む男子高校生(19)が詐欺未遂の現行犯で警視庁大森署に逮捕された。振り込め詐欺で、被害者から現金を受け取る役の「受け子」。最近はバイト感覚で引き受ける若者が後を絶たないという。捜査関係者らへの取材から、2人の19歳が事件に関わるようになった経緯を追った。

■「いいバイトがある」きっかけは先輩の誘い

「お前、暇してるんならいいバイトがあるんだけど。やってみない?」

今年6月ごろ。川崎市の無職少年は、仲良くしていた地元の先輩から、こんな誘いを受けたという。

先輩が説明した「バイト」は、指定された場所に出向いて書類を受け取るという内容だった。

報酬は悪くなかった。少年は仲の良かった男子高校生を誘って、2人で「バイト」をすることにした。

少年らは、先輩から1台の携帯電話を手渡された。「この電話に連絡があるから…」。7月2日、先輩の言う通り、この携帯に1人の男から電話があった。「バイト」についての指示だった。

東京都大田区の住宅地の民家を、ワイシャツにスラックスというサラリーマン風の服装で訪れ、「営業回りをしているタカハシです」と告げ、家の人間から書類を受け取ってくるように-。振り込め詐欺の受け子役の指示だった。

■詐欺グループの電話 待ち構えていた捜査員たち

詐欺グループは、少年らに電話で指示を出す前に、大田区の無職女性方に、長男を装って電話をかけていた。

「もしもし、お母さん? 実は、電車に会社の小切手の入った大事なかばんを忘れてしまって…」

「会社の部長に500万円を立て替えてもらっているんだけど…」

なんとなく不審な点はあったが、女性は長男のことを思うあまり、そのウソにだまされた。「200万円ならすぐ用意できるよ」。それを聞いた詐欺グループは、携帯電話で少年たちに、女性方へ行くように指示を出したのだった。

後は、長男の会社の社員を装った少年らが、女性から200万円を受け取れば、詐欺は“成功”するはずだった。しかし、偶然このとき、女性方に1本の電話がかかってきた。警視庁が振り込め詐欺防止のため委託している、民間の被害防止コールセンターからの注意喚起の電話だった。

「振り込め詐欺が多発しているので、注意してください」

女性は、ふとわれに返った。「さっきの電話は振り込め詐欺ではないか…」。女性は警察に相談。大森署はすぐに女性宅に捜査員を派遣し、何人も周囲に張り込ませた。

■「怪しい仕事と思った」 16万円の高額“バイト”

少年らは、そんなことはつゆ知らず、その日の午後、女性宅に向かっていた。少年がスーツを着て、長男の会社の社員を装って女性宅を訪れ、男子高校生は近くで「見張り役」を務めた。

「タカハシ」の偽名を名乗る少年に、女性はだまされたふりをして、「息子に渡してください。お金です」と、1通の封筒を手渡した。封筒を受け取った少年が女性宅を出て歩き始めた瞬間、近くに隠れていた私服の捜査員らが飛び出してきて、あっという間に取り囲んだ。

「ちょっと君、今の女性から何をもらったの?」

近くにいた男子高校生も、すぐに取り押さえられ、2人は詐欺未遂の現行犯で逮捕された。

逮捕当初、少年らは「受け取ったのはカネではなく書類だと思っていた」などと供述し、振り込め詐欺とは知らなかったような弁解をしていたが、調べが進むと、「怪しい仕事だとは思っていた」などと、供述するようになったという。

捜査関係者によると、少年らは受け取りに成功すると、詐取金額の8%が支払われる約束になっていたという。仮に今回、200万円の詐取に成功していれば、少年たちには16万円の「高額バイト」になっていたはずだった。

■罪の意識薄いまま、簡単に詐欺の片棒を…

「逮捕された2人は、どこにでもいそうな普通の少年だった」。捜査関係者は話す。

少年は高校を中退して定職にも就いていなかった。捜査関係者は「手軽にまとまった額の現金が入る仕事は魅力的に映ったのかもしれない」と話す。もう1人の男子高校生は、もともとは少年の同級生で、留年していたとみられる。

少年らは、自分たちを誘った先輩は知っていたが、指示を出していた振り込め詐欺グループについては、ほとんど詳しいことを聞かされていなかったようだ。少年らに携帯電話で指示を出した男についても、大森署は詳しく取り調べたが、少年らは「知らない男」と答えるばかりだったという。渡されていた携帯も、架空の名前を使って契約された「飛ばし」の携帯だった。

大森署は、指示を出していた詐欺グループについて捜査を続けているが、全容は解明されていない。逮捕されているのは少年ら2人だけだ。

振り込め詐欺は、警視庁や民間団体が防止活動を続けており、7月12日には、タレントの安めぐみさんが東京・丸の内で防止を訴える全国銀行協会主催のキャンペーンも行われた。被害に遭わないように備える機運も高まりつつある。

大森署幹部は「詐欺グループは、受け子が逮捕されても自分たちは逃げられるようにしていることが多い。ある意味で『使い捨て』にされるのが受け子だ」と指摘し、こう警鐘を鳴らす。

「若者が罪の意識も薄いまま、振り込め詐欺の受け子になっている現状がある。被害防止だけではなく、加害者を増やさないようにする対策も重要だ」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120728-00000595-san-soci

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