アートで自立図る障害者 米国からの逆輸入作品にも人気
現代アートの本場ニューヨークで、知的障害を持つ日本人作家の絵画などが脚光を浴びている。高額で取引され、中には1枚200万円を超える作品もある。海外で人気に火がついて逆輸入、国内の展覧会も好評だ。福祉の観点ではなく、純粋に「芸術」として評価しようという動きに、国も作品の保存、収集に乗り出した。
大阪市平野区の社会福祉法人「アトリエインカーブ」。芸術的な才能を生かした障害者の自立を目指している。工房で色鉛筆を走らせるのは新木友行さん(26)。縦1メートル、横2メートル程度の紙には技を決めるプロレスラーの姿。赤色や緑色などカラフルなコスチュームに身を包んだレスラーの組み合う姿が躍動感あふれる筆致で描かれている。
新木さんは約3年前、プロレスを観戦して以来、格闘技に夢中になり「紙の上に書いてみたい」という衝動に駆られた。「どの色を塗るかはパッと浮かぶ。CGや絵の具も試したが、色の多さや塗り心地は色鉛筆でないと」と色へのこだわりをみせる。
法人のチーフディレクター、神谷梢さん(31)は「彼らは芸術の教育を受けていない。だからこそ私たちが悩んでしまう配色や表現の仕方でも、ひらめきで表現できるのではないか。素直に作品と向き合っている」と話している。
新木さんらの作品が注目されるようになったのは平成16年の秋。国内で評価が難しいとみて、ニューヨーク・ソーホーのギャラリーに送ったところ、新木さんら5人の作品が目にとまった。アメリカ人らは作品を「障害者」「健常者」という枠組みではなく純粋なアートとして受け入れた。
新木さんの50センチ大のCG作品は1枚10万円の値で約30枚売れた。120号(約190センチ×約110センチ)の作品で130万円の価値がつく。200万円を超える値がついた別の作家もいるという。
海外で評価された5人の作品は国内でも注目され、“逆輸入”。ことし1月にサントリーミュージアム[天保山](大阪市港区)で開催された展覧会は12日間で6000人超を動員、大好評のうちに幕を閉じた。23年には米国で日本文化を発信するジャパンソサエティーの依頼で展覧会も予定している。
神谷さんは「本来、この施設は自立を支援する施設。ゆくゆくは自立するが、逆に美術家のみなに私たちスタッフが雇われるようになれば理想ですね」とほほえんだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080712-00000918-san-soci