年を重ねるとともに増えていく「もの忘れ」。認知症ではと心配になるが、そうであっても早期に分かれば薬やリハビリで進行を遅らせることが可能になってきた。そもそも、単なるもの忘れと認知症はどう違うのだろう。
◇15年後、患者数1.5倍に 早期なら「年相応」に改善も
福井県敦賀市に住む女性(92)は2年前に夫を亡くして以降、時々ごはんを食べたかどうかが分からなくなった。朝晩通っていた畑に行くのを面倒がり、農作物を枯らすこともあった。本人は「最近もの忘れが多くなった」とこぼし、同居する長男(60)たちは「年相応にぼけてきたのだろう」と思った。
1年ほど過ぎ、もの忘れはひどくなった。介護施設で働く長女の夫(52)は認知症の高齢者を多くみてきたことから「早めに受診したほうがいい」と感じ、専門医の受診を勧めた。診断はアルツハイマー病。まだ初期で、医師に「高齢でもあり、進行はあまり早くないでしょう」と言われたのが救いだった。
治療を始めて1年。女性は病気の進行を遅らせるアリセプトという薬を服用し、今も畑仕事や家事を続けている。家族は「病気だと早く分かったおかげで、ほぼ今まで通りの生活を送ることができて良かった」と話す。
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認知症の最も大きな要因は加齢だ。厚生労働省によると、高齢化に伴い患者数は年々増え、現在は推計約200万人。団塊世代が75歳以上になる2025年には約1・5倍の323万人に上るとみられる。患者の割合は、65歳以上の6~7%、85歳以上では4人に1人といわれている。
そもそも「認知症」とは病名ではなく、病変によって脳の認知機能が低下し社会生活に支障をきたす状態のこと。その原因となる疾患には、最も多いアルツハイマー病のほか、動脈硬化による脳血管性認知症など約70種類があり、浴風会病院(東京都杉並区)の須貝佑一研究部長は「多くはもの忘れの症状から始まる」と話す。
しかし、単なる老化によるもの忘れが進行して認知症になるわけではない。老化と認知症ではメカニズムが大きく異なる。
人間の脳には約140億個の神経細胞があるとされる。通常の老化現象では30代ごろから1日に約10万個が失われ、少しずつ認知能力が衰えていく。ただしこのペースでは40年たっても15億個、つまり脳全体の10%程度しか失われない。
一方、アルツハイマー病の場合は「通常の老化より、減少する神経細胞の数がはるかに多い」(須貝医師)という。
アルツハイマー病になった人の脳には、神経細胞の外側にしみのようなものがあり、内側には糸くずに似た物質が大量にみられる。群馬大医学部の山口晴保教授によると、このしみはアミロイドβと呼ばれるたんぱく。これが何年もかけて蓄積していくと、糸くずに見えるタウたんぱく(神経原線維変化)がたまり、神経細胞の機能が失われていく。こうした病変が脳のあちこちに広がって神経ネットワークが壊れ、アルツハイマー病を発症する。この間、20年以上はかかるという。
アミロイドβは早い人では40歳過ぎから神経細胞の外側にたまり始めるが、80歳を超えてもたまらない人もおり、個人差が大きいという。通常は酵素によって分解されるものがなぜたまり始めるのかについては、専門家の間でも諸説あり、まだ完全には解明されていない。山口教授は「遺伝的要素のほか、運動不足やコレステロールの取りすぎなど、生活習慣も関係しているようだ」と話す。
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受診が必要かどうかは、もの忘れの表れ方からも読み取れる。山口教授は「誰かへの伝言を忘れた時、『なんで言ってくれなかったの?』と指摘されて『そうだった』と思い出す人は、年相応の衰えなので心配ない。『聞いていない』と否定するようなら病的な記憶障害を疑った方がいい」とアドバイスする。単に記憶があいまいになるだけでなく、金銭管理ができなくなるなど生活上の支障を引き起こすのが認知症の特徴だ。
医師らによると、最初のうちは、アルツハイマー病が原因のもの忘れも、老化による症状と見た目には変わらない。だが、短期間で急に進むようなことがあれば、要注意だ。
最近、認知症にまでは至っていない「軽度認知障害」が注目されている。これは日常生活は基本的にできているものの、(1)金銭管理(2)電話の操作(3)薬の管理(4)1人での外出・旅行――の四つができなくなり始めた状態のことで、医師によっては「自然な老化によるもの忘れで心配ない」と診断することもある。
「軽度認知障害と診断された人すべてが認知症を発症するわけではないが、リスクは高い。この段階で治療を始めれば、脳の機能を年相応のレベルまで回復できる人もいる」と山口教授。老化から軽度認知障害に踏み込んだ時機を見逃さずに受診することが大事なようだ。
須貝医師によると、現在は軽度認知障害よりさらに前にあたる通常の老化段階で、脳内のβたんぱくを画像化する技術が実用化されている。ただし、50代でβたんぱくの蓄積が始まっていることが分かっても「20年後にアルツハイマー病を必ず発症するとは証明されていない」という。
◇海馬萎縮、画像で鮮明
老化によるもの忘れと認知症との違いは、脳の画像診断からもうかがえる。タウたんぱくがたまるのは、脳内で日付や場所などの記憶情報をつかさどる「海馬」と呼ばれる部位。アルツハイマー病の場合は海馬が萎縮(いしゅく)していることが多く、老化によるもの忘れでは基本的に萎縮はみられない。
加齢によるもの忘れ 認知症による記憶障害
経験したことが部分的に思い出せない 経験したこと全体を忘れている
目の前の人の名前が思い出せない 目の前の人が誰か分からない
物の置き場所を思い出せないことがある 置き忘れ、紛失が頻繁になる
何を食べたか思い出せない 食べたこと自体忘れている
約束をうっかり忘れてしまった 約束したこと自体忘れている
物覚えが悪くなったように感じる 数分前の記憶が残らない
※キャラバン・メイト養成テキスト(NPO地域ケア政策ネット)より引用
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20101003ddm013100030000c.html -gooニュース