30代から指摘された高尿酸値を20年放置
痛風発作から不眠症に陥ったFさん(55歳)のケース
◆健康診断で毎年「尿酸値」を指摘されるも、生ビールを愛飲し続ける
Fさんは社会に出て30余年。健康診断の前日以外、飲まない夜をあまり思い出せない。Fさんが社会に出た昭和50年代初頭は、男は酒が強いことがステータスという時代だった。酒の席を断らないことが、出世の一歩だと思っていた。
特に生ビールが大好きで、居酒屋では席につくなり「生ビール大」と叫んでしまう。仲間と飲まない日は、家で500mlのロング缶を2~3本。ここ数年は発泡酒を飲むようになったが、休みの日は昼間から缶ビールを開けてしまうほど、ビール党を自認していた。
そうした生活が祟ってか、Fさんは30歳を過ぎたあたりから、毎年健康診断で尿酸値が高いと指摘されていた。基準値を上回る数値を示して、医師に「まずお酒を控えてください」と言われる度に、反省はするが、健康診断が終わった安心感でついついその夜から居酒屋に行ってしまう。
仲間が、血圧やコレステロール、血糖値で再検査になるなか、Fさんは健康診断で言われるのは「高尿酸値」だけ。病気という意識は全くなかった。20年も言われて続けているのだから…。最近の人間ドックでも指摘されていたが、さほど気にしていなかった。
◆原因不明の関節痛がひじ・ひざを襲う
50歳を過ぎたあたりから、Fさんの周囲では尿酸値の薬を飲む仲間が増えた。彼らは痛風の発作を武勇伝のように語る。しかし発作が過ぎると、また飲み始めてしまう。痛風の発作を経験した仲間は、ビールから焼酎に切り替えていたが自分だけビールを飲み続けた。
Fさんはかなり前から、関節痛の自覚症状があった。特にひじとひざの痛みがひどい。不定期に起こる痛みに耐え切れず何度か整形外科に行ったが、レントゲンを撮っても何も見つからず、医師からは湿布を渡されただけだった。まれに「ストレスで筋肉が固まっているのかもしれない」と安定剤を処方してくれた医師もいたが、多くの医師が関節痛を加齢や運動不足のせいにして、痛みを解決してはくれなかった。
そんななか、Fさんは会社で行なわれる年1回のゴルフコンペに参加した。競馬のように参加者全員の優勝予想を立ててオッズをつけたりと、皆が意気込んでいた。金曜の夜から会社に集合しバスで出かけ、コースの近隣の旅館に1泊してから、翌朝土曜日にゴルフ。普段全く運動をしないFさんにとって、この日の山間コースは、坂を登ったり下ったりと過酷だった。
そして迎えた翌日曜日は、あまりの筋肉痛に動くこともままならなかったので早々に床についた。そしてその痛みは突然やってきた。
◆突然、足に激痛がはしり病院へ 痛風の発症で1週間休むことに…
「助けてくれ!」
夜半過ぎ、Fさんはあまりの足の痛みに耐え切れず、絶叫に近いうめき声で隣の妻を起こした。そして生まれてはじめて救急車を呼んだ。妻が電話口で「すみません。ご近所の手前、サイレンの音を消して来て頂けますか」という声を遠くに聞いた。気を失ってしまいたいほどの痛みだった。
救急車で行った病院の救急処置室で点滴。断続的に続く痛みのなか、硬いベッドでうとうとした。翌日9時過ぎ、「1週間くらい休むかもしれない」とFさんは会社に連絡を入れた。長い夜だった。「ゴルフに行ったからなのか…」とぼんやり考えていた。
医師からの診断は高尿酸値による痛風の発作だった。自宅に戻るように医師から告げられたFさんは、「こんなに痛いのに自宅に帰って本当に大丈夫なのか?」と医師に聞いてみたが、病院にいても自宅にいても痛みは変わらないからと説明を受けた。
左足の親指は、まさに風が吹いても痛いほど。まともに歩けないので松葉杖を借りてやっと自宅に戻った。入社以来30年、風邪以外の病気で休んだことはない。有給休暇もほとんど使った記憶がない。仕事に穴をあけた。それが一番ショックだった。
医師からは「1週間程度で痛みは引くだろう」と言われたが、赤く腫れあがった指を見ていると、Fさんは1週間で腫れがひくとはとても思えなかった。1週間後に大切な商談が控えていた。2日後には社内の役員プレゼンがあり、それに出られないことがもっとも気かがりで、休暇をとったその日から自宅のパソコンで部下に指示をした。
夜になって、布団に入ってみたが、断続的に続く痛みと、漠然とした不安から寝つけなかった。前夜ほとんど寝ていないのに眠気がまったく来ない。
◆職場復帰を果たすも 痛みの恐怖から熟睡できない
発作から1週間。松葉杖を使わずに、歩けるようになったので職場復帰した。しかしあの痛みがまた襲ってくるのではと思い、夜になると床につくのが怖くて眠れなくなっていた。人生初めて経験する不眠がFさんをさらに不安にさせるのだった。
その後、Fさんは尿酸値をコントロールする薬を服用。ビールも控えて、少しずつ健康をとりもどしていった。長年感じていたひじやひざの関節痛も軽減していた。もしかしたら、頑固な関節痛も尿酸値の仕業だったのかもしれない。痛みが落ち着くと、不眠も少し良くなってきた。しかし、たまにあの痛みが襲ってくるかもと布団のなかで恐怖に怯える夜もあるのであった。
東京クリニックで人間ドックを担当する笹沼仁一医師は、以下のように話す。
「Fさんの場合、健康診断の度に指摘された高尿酸値を長年放置したために、このような発作を起こしたのだと思います。高尿酸値は、高血圧、高血糖、高脂血症とならんで飲酒習慣のある30代以上のビジネスマンに多く見られます。自覚症状がないので普段は放置しがちですが、健康診断で尿酸値が高いと言われた方は、一度再検査をお勧めします。
痛風の発作は、夜中に起こることが多く、精神的なストレスや水分摂取の不足状態が続いたことが引き金になることもあるようです。発作が起こる前の予兆として、指の付け根が赤く腫れたり、じんじんとする感覚があります。こうした症状がでたら、早めに医師に受診してください。痛風の発作は、足の指に起こると思われがちですが、ひじやひざにも症状がでることもあります。原因不明の痛みが続いた場合も医師へ相談に来てください。そして薬を服用するのと同時に、普段の食事にも気を遣ってください。」

