発達障害の子どもを通常の学級でフォローする「特別支援教育」がスタートしてから、3年目に入った。発達障害の子どもへの支援や、取り巻く環境の整備が進む一方、障害への理解不足から起こるトラブルなど、課題も残る。
◇
●入学当初はトラブルも
3年の児童約30人が国語の授業を受ける新潟市内の小学校の教室。他の児童が漢字の書き取りを始める中、マキちゃん(8、仮名)は担任教諭の目の前の席でノートに落書きを続けている。左のほおを机にもたげ、左手はだらんと机の下にのばしたままだ。
「書き終えたら、先生に見せてくださいね」。ノートを手にした児童が担任の前に並ぶのをよそに、マキちゃんは担任に自分のノートを投げ出した。担任は驚く様子もなく、2、3人のノートを添削した後にマキちゃんのノートを手に取り、手早くマルをつけた。他の児童も、マキちゃんが順番を無視したことをとがめる様子はなかった。
広汎性発達障害(PDD)のマキちゃんは、知能や身体能力は他の児童と変わらない。が、説明がないと集団行動や、コミュニケーションがうまくとれない。
「例えば、PDDの子どもは見通しが立たないことに大きく不安を感じるんです」と担任の教諭は説明する。以前、合唱会の練習が長引いたときに大声で泣き出したことがあった。担任は授業や行事の前には、スケジュールや手順を具体的に説明し、マキちゃんがパニックに陥らないよう配慮している。
入学当初はトラブルもあったが、互いに慣れてくることで徐々に落ち着きが出てきたという。「周りの児童も彼女の特性を理解していて、親しみをもって接しています」
別のPDDの男児(7)は週に1回、市内の別の学校に設置されている「通級指導教室」に通う。通常の学級では給食の盛りつけに割り込んだり、トランプで負けそうになると「おもしろくない」と言って投げ出したりするため、同級生としばしばトラブルになっていたという。
通級指導教室ではゲームなどを通じて社会性を身につける「ソーシャルスキルトレーニング」を受ける。同教室の担任教諭はいう。「PDDの児童は、相手の気持ちを考えることが苦手なのが特徴。具体的な対人関係の経験を積み重ねることで、少しずつ学んでいくことが必要なんです」
◇
●診断待たずに対応必要
医師の診断ではないが、発達障害の傾向がある――。02年に文部科学省が全国の学校を対象に行った実態調査で、こうした小中学生が全体の6・3%を占めた。県内でも発達障害で通級指導を受ける小中学生は、06年の141人から昨年は3倍近い390人に増加。新潟市が昨年行った調査でも、市内の小中学生の約4%にあたる約2500人が、発達障害などで特別な配慮を必要としているという。
新潟大教育学部の長澤正樹准教授(特別支援教育学)は「昔に比べ、1教室あたりの生徒が減ったことで、集団に埋もれていた発達障害の子どもに目が届くようになった」と分析する。新潟市立万代長嶺小で通級指導教室の担任を務める門野慎一教諭は「10年間で、発達障害に対する理解は格段に進んだ」と評価する一方、「発達障害に対する周囲の理解不足がいじめや不登校などの二次障害につながるケースも少なくない」とも指摘する。
茨城県行方市では07年、授業中に帰宅しようとした発達障害の児童を担任が平手で殴打。児童は心的外傷後ストレス障害(PTSD)で約5カ月間不登校になった。同市教委は「発達障害の診断がなく、児童へどう対処するか話し合っているさなかに事件が起きた」と説明している。
また、学校関係者によると、子どもの発達障害を保護者が認めないことで、子どもへの対応が遅れるケースも少なくないという。
長澤准教授は「医学的な診断を待たず、教育現場で即時に対応することが二次障害を防ぐことにつながる。『障害』ではなく『特性』と考え、教諭や保護者が一体となって取り組むことが必要」と話す。
◇
●高校での就労支援も
先月30日、新潟市秋葉区役所で、市立の小中学校や高校、幼稚園の教諭約260人を対象に「特別支援教育コーディネーター」の養成研修があった。
コーディネーターは各校ごとに教諭が1人ずつ任命され、特別支援教育の対象となる児童の支援計画を立てるほか、学校外の関係機関や専門家との調整役を担う。
同市では05年から年に10回程度、民間の支援団体や大学の専門家を講師に招き、発達障害の個別事例に応じた指導方法や、関係機関との連携について研修を行っている。
3年以内に研修を終えるのが目標とされ、今年4月までに60人余が修了した。
高校での発達障害の生徒への支援の動きも始まっている。県立出雲崎高は発達障害の生徒の就職支援に力を入れており、08年に文科省の「発達障害支援モデル事業」に選ばれた。
作業機械が扱えない、複数の作業をこなすことができないなど、発達障害の生徒が卒業後に仕事が続けられなかった事例を分析。就労体験などを通じて、コミュニケーションを学ぶと同時に、早い段階で個別に職業の適性を見極め、就職活動に生かしているという。同校の山本久教頭は「現状では、発達障害の子どもは義務教育を終えた段階で社会に放り出されてしまう。仕事を見つけ、自立するまで面倒をみる必要がある」と強調する。今年4月には、県立荒川高も同様の取り組みを目指すモデル校に指定された。
◇◇◇
=キーワード=
【特別支援教育】07年4月の学校教育法の改正によって、従来の弱視・難聴・知的障害などを対象にした特殊学級が「特別支援教室」に一本化され、学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害も支援対象となった。軽度の発達障害については、通常の学級に通いながら、定期的に「通級指導教室」で、障害に応じた特別な指導や支援を受けることができる。
http://mytown.asahi.com/niigata/news.php?k_id=16000000905120003-asahi.com