県警が昨年1年間に受け付けた、夫や恋人などからの暴力(ドメスティック・バイオレンス=DV)に関する相談や通報が、過去最悪となった。DV防止法が広く知られるようになったことも要因とみられるが、一方ではこれまで声を上げられないでいた潜在的な被害者の存在を指摘する専門家もいる。県内に住む2人の女性の体験から見えてきたのは、一見平和な家庭の裏側にはびこる暴力の深刻な実態だった。
夫の暴力に悩まされ続けた2人の女性が朝日新聞の取材に応じてくれた。
●60代の女性
夫は酒を飲むと暴れた。「だらしがない」。そう大声で叫んだり、植木鉢を割ったりした。
ある夏の日、炊事をしていると突然顔を殴られた。警察に駆け込んだが、とりあってくれなかった。エプロン姿で、手にふきんを持ったままだった。自分がみじめでやるせなかった。息子の家に身を寄せた。夫は迎えに来たが、孫の前でカッターナイフを突きつけた。
精神的に追い詰められ、宗教に救いを求めた。怒った夫から「これ飲んで死ねや」と言われ、睡眠薬を差し出された。もう限界だった。
夫が買い物に出かけたすきに、レジ袋に下着と服をつめて逃げ出した。息子の家にかくまってもらった。保護命令が出た後も、夫は友人の家に片っ端から電話をかけ、捜し続けた。
5年前の冬、夫は孤独死した。ガイコツのようにやせこけていた。
夫との生活は今思い出しても足が震える。新聞で家族殺しの記事を見ると、背景を想像してしまう。自分もそうなるところまで追い詰められていたから……。
●50代の女性
夫婦で商店を経営していた。夫は外づらはよかったが、家に帰ると表情が一変し、命令口調になった。「オレが食べさせてやってるんだ」。従業員の前でも暴言を浴びせるようになった。
夫が定年になると、「出て行け」と毎日言われ続けた。お金も管理され、家庭内別居の状態。眠れぬ日が続き、うつ状態になった。睡眠薬も飲んだ。
03年夏、夫の留守をみはからって家を飛び出した。すぐに保護命令を出してもらった。シェルターで4カ月暮らした後、市営住宅に入った。
現在、ヘルパーの資格を取り、パートで働いている。夫は4年前に亡くなり、夫の家とも交流はない。時々眠れなくなる。孤独に押しつぶされそうになったり、これでよかったのかと悩んだり……。無力感や自信喪失に襲われるたび、またうつだろうか、と苦しくなる。
●被害者 30代が最多
逮捕・送検も増陪56件
県警によると、08年に把握した配偶者らによるDVは445件で、01年のDV防止法施行後で過去最多だった。被害者の大半は女性で、中でも30代が34%と最多。次いで40代24%、20代
19%だった。
傷害などで逮捕・送検されたのは56件にのぼり、前年の2倍になった。
警察への届け出・相談などが増えた理由について県警生活安全企画課は「DVに対する社会的認識が広がったことから、自己防衛意識が高まり、相談する人が増えてきたのでは」と分析する。
対策として、防犯ブザーのほか、GPS(全地球測位システム)機能のついた携帯通報装置を貸し出している。また、110番通報した被害者の番号を登録し、電話があれば瞬時にパトカーを出動させる「110番登録」も行っている。
自治体でもDV対策が進んでいる。昨年1月に改正DV防止法が施行され、県だけでなく各市町村でも相談窓口を設置する努力義務が盛り込まれたためだ。しかし、相談員の経験不足を指摘する声もあり、相談員の養成とともにレベルアップが今後の課題となっている。
●悩まず相談を 解決法NPOに聞く
DVなど女性の抱える問題に関する相談に応じるNPO法人「女のスペース・にいがた」。被害を受けた女性が駆け込むシェルターや、自立に向けた準備をするための住居を運営している。朝倉安都子代表に現状や課題、解決方法を聞いた。
――新潟県の特徴は?
全国平均より被害者が多いのに、加害者数は平均以下。これは暴力をふるっているという自覚のない人が多いということで、更生プログラムも必要だが、防止のためには男性がDVについて知ることが重要。企業でセミナーなどを行ってほしい。
――被害女性に必要なことは?
被害者が自立する際、住宅と仕事が一番の問題だ。住宅を借りるときには保証人も必要で、無担保・無保証人融資制度があればいい。
――被害女性に子どもがいる場合の対応は?
子どもの心のケアが大切。子どもが暴力の経験を癒やされないまま大人になって、新たな被害を生む恐れもある。
――DVの最近の傾向は?
若者からの「デートDV」(恋人間の暴力)の相談が増えている。しょっちゅう携帯電話をチェックしたり、行動を監視したりするのは、愛情と束縛を混同した立派な暴力。相手を対等の関係とみず、自由を奪っているということだ。高校や大学に出向いての講習をもっと増やしていきたい。
――いま、被害を受けている女性にアドバイスを。
一人で悩んでいる人は、ぜひ相談にきてほしい。話を聞いてもらうことで、混乱した自分の気持ちがはっきりする。相手に支配されず、自分で生き方を決められるようサポートしていきたい。
=DVの主な相談機関・窓口=
○新潟県女性福祉相談所(DV・児童虐待相談フリーダイヤル)
0120・26・2928(毎日9~22時)
○女のスペースにいがた
025・231・3012(月・金19~21時、火10~13時、木14~17時)
○新潟県警女性被害110番(女性警察官が対応)
025・281・7890(平日8時半~17時半)
○全国共通DVホットライン
0120・956・080(月~土10~15時)
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