午前5時。東京都千代田区にあるクリニック「四谷メディカルキューブ」の手術室では、病的肥満により糖尿病や高脂血症などのリスクが高まった30代の男性患者に対し、内視鏡を使って胃を小さくし、胃を小腸にバイパスする「減量手術」が行われていた。
日の出前の異例の手術には理由があった。減量手術の最新技法を時差のある米ニューヨークで開催中の国際学会にライブ中継していたのだ。
手術室に並んだ複数のモニターには、メディカルキューブのほか米シカゴやニューヨークで行われている同様の内視鏡手術の映像が映っている。「日本から送られる映像はきれいだね」。学会からはこんな音声も聞こえてくる。
日本での手術は約2時間で無事終了。執刀した笠間和典医師は「過去に何度もライブ中継の経験はあるが、日本から米国へは初めて。医療のグローバル化が進む中、世界に日本の医療技術の高さを示すことができる」と中継の意義を説明し、こう強調した。「今回のライブには九州大の協力が不可欠だった」
通信技術を活用し、遠隔地から送られた患者の医療情報を診断したり、治療の指示を行う遠隔医療。今回のように、リアルタイムの映像をみながら、新しい医療技術を学ぶことも遠隔医療の分野の一つという。
そして、この分野で世界と肩を並べる技術を持つのが、今回の手術をバックアップした九州大病院のアジア遠隔医療開発センターだ。「アジアの中心として遠隔医療のネットワーク作りを進めた結果、九州大は今や、遠隔医療の世界におけるハブ(車輪の軸)となっている」。清水周次センター長はこう話す。現在は欧米を含めた32カ国207医療施設へのネットワークを築いている。
九州大が進めるのは医師が医師へ治療法を教えたり、治療方針を決定する際に専門医に検査依頼や意見を聞いたりする「医師-医師」間の遠隔医療だが、医師が患者を診断するような「医師-患者」間の利用も始まっている。
「医師の偏在や社会の高齢化が進む日本では、まさに遠隔医療が求められる土壌がある。ここで、日本が遠隔医療の技術や活用法を世界に示せれば、今後、この分野で世界をリードしていくことができるはずだ」。日本遠隔医療学会の理事を務める東福寺幾夫・高崎健康福祉大教授は、こう指摘している。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130103/bdy13010312000001-n1.htm
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