65歳までの希望者全員を雇用するよう企業に義務付けた改正高年齢者雇用安定法が4月1日に施行される。
改正法は、厚生年金の支給開始年齢が4月以降、現在の60歳から段階的に65歳に引き上げられることに伴うもので、昨年8月に成立した。
定年後に年金を受け取れない期間が生じるのを防ぐという狙いは理解できる。企業に対し、希望者全員の雇用継続を義務付けるのは、時代の要請と言えよう。
現行法も、60歳で定年を迎えた社員が、定年の廃止か引き上げ、または継続雇用により、65歳まで働けるよう企業に求めている。継続雇用を選択した場合、健康状態や働く意欲など、一定の基準を設けて選別できる仕組みだ。
今回の制度改正は、この基準規定を廃止し、選別を認められなくするのが眼目だ。政府は、違反した企業に勧告を行い、従わない場合は企業名を公表するという。
確かに、平均寿命が伸び、60歳代の健康状態は格段に向上している。年金に支えられてきた60~64歳の人たちが、働いて税や保険料を納め、社会保障の支え手となる意義は大きい。
この年代の所得や消費が向上し、経済成長を後押しする効果も期待できるだろう。
だが、60歳代では、能力と意欲の個人差が広がる。経済界が65歳までの継続雇用の義務化に「人件費が増え、経営を圧迫する」と反対していたのも、無理はない。
重要なのは、高年齢者の雇用維持を理由に若者の仕事を奪ったり、非正規雇用を増やしたりしてはならないということだ。
改正法施行で、「若年層の雇用を抑える」とした企業は約4割に上る、との調査もある。
社会全体の活力を低下させないようにするためにも、若者から高齢者まで、働く場の確保に各企業は知恵を絞ってもらいたい。40~50歳代の賃金上昇を抑えるなど、人件費の配分を工夫していくことになるだろう。
年金の支給開始年齢について、米国やイギリス、ドイツは既に67~68歳に引き上げることを決めている。これらの国より早く高齢化が進む日本で、さらなる引き上げを避けるのは難しい。
一段と少子高齢化が進み、働く期間も一層長くなる。企業も労働者も「生涯現役社会」の到来を見据えねばならない。
政府にも、成長産業にテコ入れし、雇用を拡充していくような戦略的な政策が求められよう。
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/life/medical/20130328-567-OYT1T01988.html