京都大の女性研究者がホスピスで終末期患者に寄り添った経験から、「人はなぜ苦しいのか」を分かりやすい心理構造の図を使って話す講演が京都府内外の病院や福祉施設で評判を呼んでいる。「人は思いを語りながら新しい意味を見つける。苦しみを和らげる旅に寄り添ってあげて」と、そばにいる人の大切さを語っている。
■京大の女性研究者、独自の理論
非常勤講師の佐藤泰子さん(51)。30代で京大大学院人間・環境学研究科に入り、在学中に出産育児を経験した。自身を「思い悩む性格」といい、人の苦悩を研究するため、2005年から京都市内のホスピスに通い始めた。質問や助言はせず、患者の話を聴いた。
「早く逝きたい。生きてるうちは地獄」と言い続ける男性に会った。命を否定していたが、次第に妻子への思いを語り出した。3カ月後、「魂はいったん消える。その後、家族を見守らないと」「ゆっくり流れる時間、最高だよ。命ある限り頑張るんや」と、新しい心の境地を語った。
佐藤さんは「理想と現実にずれがあるから苦しいのではない。心が現実に『ノー』を突き付けていたから苦しかったんだ」と気付いた。「男性は治らぬ病という現実はそのままに、自ら納得いく形に思いを編み直した」
その後、多くの在宅がん患者やハンセン病患者も訪ねた。それぞれ語り尽くす中で前向きな折り合いを見いだしたり、自分なりの答えを探していた。「感情は頭の中ではばらばらで、1人では堂々巡り。誰かに伝えようと語る時、文脈になり、苦悩の正体や新しい意味に自ら気づける」
講演では、独自に考えた苦しみと緩和の構造を「Z」の図=写真=で伝える。「苦しい事柄」と、そこにノーを向ける「思い」を対角線上に置き
▽事柄を動かして現実を変えるのか▽思いを動かすのか-を横向きの矢印で示す。「何を動かそうとしているのか考えれば、援助者も理解が進んで楽になる」
医療福祉機関や企業のメンタルヘルス研修に呼ばれ、11年だけで33カ所を回った。
佐藤さんは「傾聴は大切と言われるが、なぜ有意義なのか順序立てた理論がなかった。うまく話を聴く人が増えれば、幸せな人が増えるはず」。そんな思いで講演を続ける。
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