[ カテゴリー:食育 ]

学校給食 「完食」指導の弊害は

学校給食は「残すな」より「食べ残せ」が正しい 完食指導が学校嫌いとメタボを引き起こす

私が子どもの頃、同級生に里子ちゃんという女の子がいました。家が近かったので、よく一緒に遊んでいました。里子ちゃんは食が細い子で、給食を完食することができませんでした。それで、よく昼休みに教室に残されて食べさせられていました。涙を流してうなだれながら、給食を見つめている里子ちゃんの姿を今でも覚えています。
斉藤さんという男性は、子どもの頃、給食のバナナを食べずにいたら、先生に見つかって強制的に食べさせられました。大変な苦痛を感じて、それ以来、バナナが食べられなくなってしまいました。いまだにバナナのにおいをかいだだけで気持ちが悪くなるそうです。
「給食指導」の名の下に、このような人権侵害・虐待が長年行われてきたのです。そして、いまだに根強く行われています。
雑誌の編集者である林さんは、子どもの頃ピーマンが嫌いでした。ある日、それがお母さんにバレて、たびたび強制的に食べさせられました。彼はお母さんが怖いので我慢して食べていましたが、大人になった今はピーマンが食べられません。
子どもの頃、ピーマン以外にもブロッコリーやゴーヤも嫌いでしたが、今はそれらは普通に食べられます。でも、ピーマンは食べられません。彼は「強制的に食べさせられたトラウマだ」と言っています。それだけが原因ではないようですが、お母さんとは冷え切った関係になっています。お母さんのことは「嫌い」というより「怖い」そうで、できるだけ会わないようにしているそうです。

給食のことで苦しんでいる子どもたちが今もいる

読者の中にも、子どもの頃に学校の給食や家庭での食事において、苦しい思いをしたことがある人はいると思います。そして、今現在でも給食・食事のことで苦しんでいる子どもたちがたくさんいます。子どもたちを苦しめる問題は次の2つに分けられます。
1. 小食で食べる量が少ない(量の問題)
2. 苦手な食べ物がある(質の問題)
私は長年小学校の教師として数多くの子どもたちを見てきましたが、給食がいじめや不登校の原因になることもありました。そのほかにも強制的な給食指導・食事指導にはいろいろな弊害があります。
●強制的に食べさせられた食べ物に対して嫌悪感を持ち、一生苦手になることもある
●食事の時間が怖くなり、食べること自体に否定的な感情を持つようになる。それは生きることの否定にもつながりかねない
●しかられ続けることで自己肯定感が持てなくなり、自分はダメな人間だと思うようになる
●強制的に食べさせる先生や親に対して恐怖感を持つようになり、それが他者不信感につながることもある
●毎日苦しみ続けることで子どもらしい快活さがなくなり、鬱的な状態になる
こうならないためには、どうしたらいいのでしょうか? まず食事の量についてですが、これは極めて個人的かつ生理的なものであることを理解しておく必要があります。大人にも、小食の人もいれば大食の人がいるように、子どもたちも百人百様なのです。たとえ同じ学年でも、体の大きさ、運動量、代謝量などには個人差があり、当然、必要なカロリー量も違ってきます。

基礎代謝量は遺伝子レベルで決まっている

川﨑市立看護短期大学の西端泉教授によると、基礎代謝量(体を動かさなくても消費するエネルギー量)だけをとっても、同じ年齢、性別、体格で最大20%程度の個人差があるそうです。しかも、この基礎代謝量の個人差を生じさせる遺伝子がすでに特定されているそうです。つまり、基礎代謝量は遺伝子レベルでほぼ決まっているのです。
これに活動代謝量(体を動かすことで消費するエネルギー量)を加味すれば、同じ学年の子どもでも代謝量はさらに大きく違ってきます。しかも、同じ子であっても、その日の活動量、体調、精神状態などによって代謝量は大きく変化します。ですから、一律に食べる量を決めることなどやってはいけないことなのです。「給食の量はその学年の子にふさわしい量になっているのだから残してはいけない」などと言って強制する先生もいますが、これは上記の事情を無視した暴論と言わざるをえません。
もちろん、子どもたちの食が進むよう、先生や親にできることはしてあげる必要があります。規則正しい生活をする、運動量を増やす、高カロリーな間食や清涼飲料水をやめるなどです。こういったことはぜひともやらなければなりません。でも、それ以上のこと、してはいけないことはしてはいけないのです。
次に食事の質、つまり好き・嫌いの問題です。これについても、次のように、先生や親にできることはしてあげる必要があります。
1. 調理の工夫で食べやすくする 
2. 食事を明るく楽しい時間にする 
3. 食材の栽培や調理に子どもを参加させる
4. 食材の栄養などについて子どもを啓発する
このように、できることはしてあげてください。でも、それ以上のこと、つまり強制的に食べさせるようなことはしてはいけません。冒頭で紹介した斉藤さんや林さんのように、嫌いなものを無理に食べさせられたことで、大人になってからも食べられなくなるということが実際にあるのです。逆に、そういうことをしなければ、大人になったら自然に食べられるようになるということもあるのです。私も子どもの頃、マーマレードが食べられませんでしたが、20歳ごろに試しに食べてみたらおいしかったので、それから食べられるようになりました。
私が最近心配しているのは、「食品ロス」をなくすためということで、給食指導を強化する動きがあることです。いわく、「日本は世界一の残飯大国で大量の食べ物を捨てている。世界には食べたくても食べられない人たちがたくさんいるのに申し訳ない。農家の人や調理した人たちにも申し訳ない。もったいない精神で食べ残しをなくそう」。
こういった声に押されて、給食の残量調査が強化され、先生の中には自分のクラスの残量を減らすことに躍起になる人もいます。給食の後で「今日は25人が完食!」などと発表する先生もいます。これをやられると小食で食べ残す子はいたたまれなくなります。友だちから「○○ちゃん、残さないで頑張って食べようね」と励まし(?)を受けたり、「○○ちゃんのせいで全員完食できなかった」などと嫌みを言われたりすることにもなります。
トレンド総研が2018年5月16日に発表した調査結果よると、小学校教員の86%が給食の残食率が気になっており、「頑張って残さず食べさせるように指導している」という教員が68%にも上るとのことです。

給食の完食を強制するのはナンセンス

もちろん、食品ロスを減らすためにできることをみんなで協力して行うことは大切です。冷蔵庫の管理をして期限切れで廃棄ということをなくす、冷凍保存の工夫をする、レストランのメニューに小盛りや中盛りの選択肢を入れる、「少なめで」と言う勇気を持つ、などです。でも、それ以上のことはしてはいけないのです。
子どもたちに給食の完食を強制するなどまったくナンセンスです。子どもが無理に完食することで難民や貧困の人たちが救われるわけではありません。その子が食べ残すことが、まるで難民や貧困の人たちを苦しめることでもあるかのように脅すのはやめるべきです。
もし、お宅のお子さんが給食で苦しんでいるなら、大人の交渉力を発揮して救ってあげてください。「以前、無理に食べさせようとしたら、登校渋りになって……」「一口だけでいいからと言ってナスを食べさせたら、吐いてしまいました」などといった言い方は効果があります。「家でも好き嫌いをなくそうと頑張ってるんですけど……」と伝えると、先生も「家でもやってくれているんなら、まあいいか……」と思ってあきらめやすくなります。
さらに問題提起させていただくと、私は「給食は食べ残せ」と教えてもいいくらいだと思っています。というのも、食べすぎこそが現代人の不健康の一大要因だからです。実際に、市町村の保健師がメタボや生活習慣病の予防指導をおこなうときには、「満腹になるまで食べない。食べ残す勇気が必要」と教えています。
アンチエイジング研究の第一人者・白澤卓二氏は、次のような研究を紹介しています。
「ウイスコンシン大学のワインドラック教授の研究によると、ヒトに近いアカゲザルを使った実験で、カロリーを70%に減らした(腹七分目)猿たちは、病気の発症率や死亡率、認知機能、学習機能などにおいて老化度合いが顕著に少なかった」。
金沢医科大学の古家大祐教授によると、「肌から髪の毛、筋肉、骨、内臓、脳……。頭のてっぺんからつま先まで、全身の老化にブレーキをかける」サーチュイン遺伝子というものがあり、それは腹七分目の食事によってスイッチオンになるそうです。
つまり、健康長寿や認知症予防などのためには、腹七分目が大事なのです。そのためには、初めから配膳量を減らすのはもちろんですが、目の前に出された食事を勇気を持って食べ残すことも必要です。それには子どもの頃からの習慣が大切で、「完食は偉い」という刷り込みをしていたのでは不可能な話です。
この先、長い人生を生きる子どもたちのことを本当に考えたなら、あえて「満腹になるまで食べない」指導をすることこそが大事なのではないでしょうか?
著者:親野 智可等

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